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2020年4月1日

三菱東京UFJ銀行:”新型コロナウイルスが原因でビジネス停止になった場合の契約上の不可抗力条件”について井上奈緒子が執筆

米国法解説
新型コロナウイルスが原因でビジネス停止になった場合の契約上の不可抗力条件について
• 発行:2020/04/01
• 記事提供:シャッツ法律事務所(外部サイトへリンク)
概要
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、すでに契約を交わしている取引業者や従業員との雇用契約を執行することが難しくなるケースが生じています。しかし、契約書の内容によっては“不可抗力(Force Majeure)”的災害として、契約一時停止・解除が可能な場合があります。本稿では、不可抗力的災害における契約法上の対応について説明します。
世界的規模での新型コロナウイルス(以下、「新型コロナ」)の感染拡大により、多くのビジネスが突然途絶されました。これに伴い、すでに契約を交わしている取引業者や従業員との雇用契約を執行することが難しくなるケースも生じています。しかし、契約書の内容によっては、“不可抗力(Force Majeure)”的災害として、契約一時停止・解除が可能な場合があります。本稿では、不可抗力的災害における契約法上の対応について簡単に説明します。

まず、多くの商業契約書には、不可抗力条項が規定されています。この条項は、もし当事者のどちらか、あるいは両者にとって予測をしていなかった事態が発生し、その事態が当事者の責任によって起こったものではなく、また、当事者が努力しても契約執行をしえない状況に置かれた場合に、契約を一旦停止する、あるいは解除を了承することを目的としています。

不可抗力条項では、予想外の事態についての例や定義がされているのが一般的です。例えば、“Act of God(神の御業)”と言われるようなEarthquakes, Tornadoes, Hurricanes, Typhoons, Floods, Tsunami, Riots, Terrorism, Strikes, Wars(地震、竜巻、ハリケーン、台風、洪水、津波、暴動、テロ、ストライキ、戦争)などが典型的な事態とされています。もっとも、今回の新型コロナのようなMedical Epidemic(感染症の流行)やPandemic Events(世界的大流行)などの事態は含まれていないことが多いようです。

次に、このような事態が起こったら、できる限り早く契約相手に通達する義務があります。また、通達後は通常、ある一定の期間において契約不履行の状態が続いても、事態が改善された時点で契約履行を再開することが義務づけられています。ただし、中には事態改善に予想以上の時間がかかったり、あるいは事態の深刻さが予想以上であったりしたために、契約を再開することが不可能、または意味がないものになる場合もあるので、契約一時停止・解除の承認を約束することもあります。

さらに、当事者同士の異論・論争を極力避けるため、不可抗力条項に、「契約当事者が緊急事態による契約不履行を主張するためにはどのような努力をするべきか」などと明記されることもあります。例えば、「当事者は、不可抗力事態が発生したら契約不履行にならないように妥当な努力をするべきである」、「商業上、履行不可能と解釈できるまで努力しなければならない」、あるいは「分別のある人間が契約不履行になると思える程度の努力をすれば十分」などといったように、契約履行のために求められる努力の基準もさまざまです。これらの基準は、業界の性質や業務内容によって異なるため、契約交渉の際、基準について相手側と交渉しておく必要があります。

なお、不可抗力を引き起こす事態やその深刻さについての解釈には多くの論争があります。つまり、新型コロナによるビジネスへの影響については、契約当事者同士の解釈に任されているため、一方が契約不履行を唱えても、もう一方が契約不履行の理由が不十分だと反論すれば、不履行を唱える側にとっては契約履行の努力をしたにもかかわらず履行が不可能だったという証明が必要になります。つまり契約法上、不可抗力による契約一時停止・解除を求めるためには、契約不履行の理由に加え、不可抗力事態の発生に関する因果関係と不可抗力に対する努力の度合いを証明する必要があるのです。

例えば、政府が“Stay Home”を要請している状況において、契約相手が在宅勤務可能な職種である場合、通常は契約相手からの納品が遅れたことを契約違反として訴えたとしても、不可抗力の事態を考慮し、遅滞を想定した契約維持を契約相手が求めることもあります。また、製品納入に関しても、他人との距離を考えて納品するならば、業務は可能であり、新型コロナ感染による政府命令によって納品を停止する理由にはならないという異議もあり得るでしょう。

その他の法的理論として、契約の実行不適合性(Impracticability)という理由で契約解除が可能になることもあります。契約における不可抗力とは、契約履行義務があるにもかかわらず上述のような予想外の事態によって不履行になったという場合ですが、実行不適合性とは、事態の変化によって契約履行をする理由がなくなった場合によく使われます。例えば、オリンピック開催に向けて2020年5月までに食品・物質などの納品をすることが契約の目的だった場合、オリンピックが延期になり、納品をする意味がなくなったため、実行不適合であるという理由で契約解除がなされることがあります。なお、契約改定をすることによって、期日を延長することも考えられるでしょう。

最後に、不可抗力条項が契約書に明記されていない場合には、慣習法・判例法に基づいて解釈がなされます。この場合、契約不履行の定義や基準が明確ではありませんが、契約上に明記されていなくても、相応の理由と状況によって契約回避は可能です。
法的解釈としては、契約の目標を達成する過程で事態が発生し、契約履行が不能になったのであり、当事者の過失によって不履行になったのではないという論理です。

いずれにしても、不可抗力条項の有無にかかわらず、当事者同士の解釈が相違したために紛争になれば、紛争解決を法廷や調停の場で行うことになり、第三者が介入することになります。その場合、因果関係を証明する基準、努力の度合い、契約の実行不適合性についての解釈が契約条件・内容や事態の状況によって異なり、また裁判所・判事・調停人の解釈によっても判断が相違するので、契約不履行を唱える側は、慎重に判断したうえで契約一時停止・解除を求める必要があります。

※当記事を通して提供している情報は、一般的、および教育的情報であり、読者個人に対する解決策や法的アドバイスではありません。読者個人の具体的な状況に関するご質問は、事前に弁護士と正式に委託契約を結んでいただいた上でご相談ください。
M000828-10
(2020年3月27日作成)